■民話が語るもの
輪島には、興味深い民話がたくさん伝えられています。それらには、地域に代々住んできた人々が、後世に伝えたいとする、生きるための知恵とも言うべき内容が豊富に含まれています。地域の人々が、その風土の中で周りの人々や環境と折り合いをつけながら、長い時間をかけて作り上げてきた文化の一つの表現であると言えましょう。
しかし、戦後、急速に科学技術が進歩して、近代合理主義に捉えられてしまい、最近では、これらの話は不合理なものとして捨て去られ、忘れ去られようとしています。今後、経済のグローバリゼーションが進み、社会の隅々までもその影響が広がってしまうと、これらの貴重な民話の文化を失ってしまうことにもなることが危惧されます。
■民話の輪島学的意義
能登半島の輪島付近の海域は暖流と寒流がぶつかり合っていることが知られますが、その地勢的位置から、古来、東西文化が交流してきたところです。例えば、海士町の先祖の人達は福岡県鐘ケ崎から渡ってきたと伝えられています。一方で、半島地形から独特の文化圏が形成されてきたということができ、そうした条件を背景に、他の地方に比しても多くの民話が伝えられてきた可能性があります。
民話は、人々がその生活の中から生み出されるものであり、その内容には何らかのその時代の真理が含まれているものです。後世に、単に科学的に不合理なものとして捨て去ってしまってよいものではないと思われます。
不合理といえば、最近世界から注目を集めているアニメの世界はどうでしょうか。ファンタジーのアニメの世界も一種の民話ということができるのはあるまいか。本来のあるべき民話の世界から言えば、現代においては現代版の新しい民話が生まれてもよいのでないでしょうか。そうしたことが、輪島学が目指す創造性豊かな地域の文化にもつながっていきましょう。
■貴重な民話の聞き取り記録
輪島の民話に着目して、すでに30年以上も前に、市内の古老から聞き取り活動を行ってきたグループがありました。その貴重な成果とも言うべき記録は、昭和52年〜53年に3巻に編集されていましたが、改めて平成16年(2004年)3月、1冊にまとめられて刊行されています。それが、石川県輪島市教育委員会編集・発行の「輪島の民話」です。
記録された「輪島の民話」の語り部の方々は62名、採取された民話の総数は258編の多くに及んでいます。同書のあとがきによれば、子どもたちの「ふるさと学習」「輪島学」の一助になることが期待されており、輪島学HPにその一部だけでも紹介できることは大変よろこばしいことであります。
<謝辞>「輪島の民話」編集責任者高山文雄先生には、同書の活用を許可いただきましたことに深甚の謝意を表します。
■民話の事例を紹介
以上のことから、輪島の民話についてその一端を掲載するものです。ホームページには限界もあり、膨大な記録のすべてを紹介することは不可能です。一部に限る他はありませんが、ここでは文字によるだけではなく、その民話に関係する場所を具体的に写真でも紹介できる数例を示してみることにいたします。
民話に興味を持たれた読者には、さらに前記刊行本等に当たっていただくと、地域のお年寄り達が語り伝えてきたおもしろいお話の数々に出会うことができます。
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